月 西 騒 動 5
「!?」
その時、花井は自分の頭部の血液がさぁっと引いていくのを感じた。髪の毛が抜け落ちる幻覚を見たくらいだ、ボーズなのに。
遠のく意識を必死に鷲掴みにして引っ張り戻すと、花井は巣山の手から新聞を奪い取った。遠い目をしてる場合じゃない。今は現実を・・・目の前の月西を見なければ!
とてつもなく嫌な予感がする・・・。
花井は4番田島の回答を血眼で捜した。ジャスト3秒で見つけ出す。
一瞬、このまま新聞を丸めて捨ててしまおうかと思ったが、花井が見なくても他の人間は見るのだから、あまり意味がない。捨てるなら、今月の月西を全て回収して問題のある部分を黒ベタしなくてはどうにもならない。
葛藤の末、花井は覚悟を決めて、再度記事を見た。
『好きなタイプは、どんな子ですか?』
という質問に対して答には、
『花井梓』
と、書いてあった。
花井はブホォ!と盛大に吹いた。
まさか・・・まさか、自分自身のフルネームが馬鹿正直に書かれているなんて!
弾丸ライナーが脳天を直撃したかのような衝撃。
「な ん じ ゃ こ り ゃ ぁ 〜 〜 〜 ! ! !」
阿部の好きなタイプは投手、なんて回答は可愛いものだ。
「だって、オレの好みのタイプは花井が近いんだよな!」
「な、な・・・!」
あっけらかんとしている、田島の顔を見て驚愕した。こんな時は、赤くなった方がいいのか、青くなった方がいいのか・・・。
「自分のスタイルもキライじゃねーけど、やっぱりスラッガータイプって好きなんだよなぁ〜」
田島が、頭の後ろで手を組んで花井を見上げるとニヤリと笑った。
「〜〜〜!!!」
(ちくしょう、こいつはどこまでわかってやってんだ!?)
こうやって、いつだって田島にはやり込められるのだ。悔しいけど、田島に勝てる気がしない。力いっぱい田島をにらみつける。田島は泰然と笑っているだけだった。
周りは相変わらず、わーわー騒いでいた。
広げていた新聞に、もう一度目をやって溜息をついた。
たったひとつのアンケートで、こんな大騒動になるとは思いもしなかった。ありがた迷惑な取材だったなと思ったが、大きな見出しで『目指せ、甲子園!頑張れ、新設西浦野球部!』と書いてあるのを見て、やっぱりありがたいと思った。
花井は新聞から顔を上げて、笑ったり怒ったりしている部員たちに声を掛ける。
「おい、そろそろ部活行くぞ!昼に少し雨降ったから、今日はグラ整念入りにするかんな!」
気合を入れるように言えば、「うっす!」という言葉が揃って返ってくる。
なんだかんだと大騒ぎしても、やっぱり西浦はいいチームだぜ、なんてことを花井は思って一人こっそりと笑いながら新聞を綺麗に畳んだのだった。
END