和己に用事があって放課後に6組をのぞいてみたら、慎吾が窓際に寄りかかって女を侍らせていた。因みに、侍らせていた女の数は、ひーふーみー・・・であわせて3人もいる。あいかわずのいやらしんごっぷりに呆れてしまった。


島崎慎吾という男 2


 なにがいやらしいって、3人の女とほぼ均等に話しているとるところとか、いかにも『自然に』話をしているところとかだ。3人も相手にしてるのにそれぞれが相手が楽しいと思うような話題をふったり、しゃべる時はさりげなく相手の顔をじっとみたりするところがまたなんともいやらしんごだ。
 ホント、ソツがなさ過ぎるんだよ、慎吾は。
 誰かをヒイキするわけでもなければ、女に囲まれていい気になってますって顔をしているわけでもないし。
 極めつけは、この男は誰も好きじゃないときてるから始末に終えない。本命の一人でもいればかわいげもあるのに。
「ねぇ、島崎君はどんな子がタイプなの?」
 慎吾の右隣をキープしている化粧ばっちりなギャル系の女Aがくだらないことを言い出した。
「あー、知りたい。超知りたい!」
 左隣をキープしているやっぱりギャル系な女Bも尻馬に乗った。
 慎吾の正面で、一見天然系に見えるが、実のところは猛禽な女Cが黙ったまま全身で周波を送っていた。
 あー、女って・・・なんてアホ。
「あー、タイプねぇ・・・」
 慎吾はうーんって考えるふりをしている。どーせ、答える気なんてないんだろー。
 和己もいないことだし、慎吾にでも絡もうかな。
「オレの好みはねぇ〜、おっとりしてて、その実芯の強い子かなぁ。心が深くて広くてあったかい子。あ、オレは特別面喰いじゃないからー」
 慎吾の代わりにオレが答えてやった。
「あー!山ノ井だぁ!」
 ギャル系女Bがオレを指差した。
「オレ、人を指差すような女は御免かなぁ」
 って言うと、Aがギャハハと品なく笑った。Cは表面上は『山ノ井くんはそういう子が好きなんだね』なんて言って控えめにあはは〜って笑ってるけど、目は男のオレに悪く言われたBを見下して優越に浸っていた。
 いや、Cさん・・・オレはアンタのことも御免だよ。だって、腹の中が真っ黒でしょ?
「っつーか、山ノ井の好みなんか訊いてないから!」
 Bがオレを軽く睨んだ。
 肩を竦めて、目だけでちらりと慎吾を見ると・・・慎吾は窓からグラウンドを見ていた。まったく興味ないって顔してら。
「あー、そういえば今まで話してたのって慎吾の好みだっけ〜?」
 わざと話をまぜっかえしてやると、慎吾がちらっとオレを見た。オレはにっこり笑ってその視線を受け止める。
「そうそう!」
 女どもが食いついてきた。
「島崎くん、どんな子がいいの?」
 慎吾は、そうだなフィーリングがあうか会わないかだからこれといった好みはないな、なんて曖昧な答えをした。
 嘘だろ?オレは知ってんだよ、お前が去年の夏に大学生とつきあってたってネタ。あと、去年退職したうちの保健室の先生ともかなり親しげだっただろ。
「慎吾、年上好きだよな〜」
「やめてよ、ヤマちゃん」
 オレが茶々を入れると、慎吾が苦笑いして誤魔化そうとしたけど、ホントのことだからしょうがないんじゃない?
「島崎君ホントー!?年上好きなの!?」
 不満そうな顔をするメスどもに慎吾は「そういうわけじゃない」なんて灰色な回答をしている。慎吾、政治家向いてるかもね。
「じゃあ、嫌いなタイプは?」
 めげずに女Aが聞いてきた。
 なんでそんなくどく質問するのかなこの女は。ギャル系とか言うわけないでしょ、慎吾が。あんたに都合のいい答えを聞きたいだけなんでしょうが。
「そうだな・・・」
 あれ?
 ってオレは思った。
 だって、慎吾がちらりとグラウンドを見たんだ。ほんの一瞬だったけど、オレはそれを見逃さなかった。
「あまりにもストレートなのはちょっと、ね・・・」
 そんな答えに女どもが『えー!?どういう意味!』と逆質問し始めた。
 オレはそんなことはどうでもよかった。うざいと思うほど、注意がそっちにいってなかった。
 慎吾が見ていたものが・・・わかった。
 窓の外に見えるグラウンドでは、野球部が練習をしていた。二か月に一度行う100m走の記録を測っている。
 六人並んで走っているその中で、まるで韋駄天のような走りっぷりでひとり抜きん出て早くゴールを切る姿があった。
「・・・迅なんだ」
 ぼそりと言うけれど、女との話しで盛り上がっているふりをしている慎吾はあたかも聞こえてませんと言う顔をしていた。
 慎吾・・・今の、聞こえてて無視してるでしょ?
 オレはその後は黙ったまま、グラウンドの迅を見ていた。
 慎吾の言った嫌いなタイプってヤツは・・・まず間違えなく迅のことだ。
 オレは談笑している慎吾の顔を伺う。
 全然こっちを見ない。オレを無視してる。
 夏大終わった後くらいから慎吾と迅の距離が凄く近づいた。今まで慎吾を嫌っていた迅がある意味で慎吾に落ちたからだ。慎吾は、他の人間と同じようにわけ隔てなく迅に接していた・・・ようにみせて、その実けっこう迅に興味があったんだ。
 だから、慎吾と迅はついこの前までとても仲のいい先輩後輩って感じだったんだけど。
「嘘だよ。ウマがあうあわないはあるけどさ。嫌いなタイプっていうのもないよ」
 慎吾がしつこく聞いてくる女をかわすためにまたひとつ適当な嘘をついていた。
 慎吾は結構うかつだ。そつないくせに、たまにぽろっと本音が零れる。プレイでもそうだけど、極希に大事なところでエラーするんだよな。あと、お見合いとかさ。
 まぁ、アレだよね。嫌いなタイプが、迅だっていうのは・・・それはなんとも・・・慎吾らしいわ。
 でもさ、迅。それはそれで・・・すごいことなんだぜ。
 なんにしろ、慎吾の特別っていうことなんだから。


END

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