恋愛恐怖 



 スキは恐い。
 ずっと俺の中に、あったものがね、なくなっちゃうから・・・。
 野球がね、投げることがね・・・頭の中から消えちゃうんだよ。オレ、それが恐い。
 ずっと投げることしか考えてなかったのに・・・。投げることを忘れたら、オレが、オレでなくなっちゃう。 
 オレから、投げることをとったら・・・何も残んない、よ。もう、阿部くんが好きだってことしか残らない。
 まさか、投球のことを一瞬でも忘れて夢中になる”何か”が、あるなんて・・・思わなかった。
 その瞬間は、オレが、オレでなくなっちゃうんだ。投げること=オレの証明だったのに・・・。阿部くんだけしか、見えなくなってしまう。オレがオレでなくなっちゃう。
 だから、恐い。スキは恐い。
 どうしよう・・・こんなに阿部くんのこと好きになっちゃって。
 ホントに、どうしよう。
 

*20××年盛夏 深夜零時、三橋廉自室でボールを抱えながらの独白。

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