う〜、妹相手にこんな話しをしていいなかなぁって悩んだけど。
「うん!誰にも言わない、内緒だよ!」
妹の元気のいい返事に、心を決めた。
ないしょの話は、あのねのね。 2
オレが体を前にして、そわそわする妹の小さな耳もとに両手でトンネルを作る。
「あのね」
「うふふ、おにいちゃん、こしょこしょってする」
首をすくめて、妹が笑った。
「くすぐったい?」
体を離そうとすると「大丈夫、なになに?」と続きをねだったから、オレはそのまま話を続けた。
「うちの野球部のね、ショートのヤツなんだけど」
「しょーと?まことくんと同じ?」
「うん、同じだよ、ショート。そいつがね・・・捕るのが難しい打球をね、捕ったんだ」
「それって、凄いの?」
「凄いよ・・・ダイビングキャッチだよ。それでアウトとったんだ。すっごい、感動した」
野球部のみんなは、それぞれがすごい。三橋だって普段はあんなだけど、マウンドに立つとすごくかっこいいし、阿部にクソレって言われてるあの水谷だって決める時は決める。
でも、巣山は別。
「へぇ。すごねぇ」
巣山は、特別。
「そうなんだ・・・すごいんだよ。それい、とっても・・・かっこいいんだよ」
特別、かっこよく見える。
「かっこいいんだ!」
「うん。普段からかっこいいけど・・・飛んでくるボールを見据える表情が、怖いくらい真剣で・・・いつもよりかっこいい」
普段は沈着冷静だけど・・・グラウンドでポジションに就いて、打たれたボールがショートにくると目つきがまるで、鷹の目みたいに鋭くなって精悍さを増すんだ。
それが、すごくかっこいい。
「へぇ、そうなんだぁ」
「うん、巣山は・・・守備に就いている時が、一番かっこいい」
男前度が、2割増しくらいになる。
「ふ〜ん」
妹が顔を上げて、そのおっきな目でオレを見て。
「そのかっこいい人はすやまくんって言うんだね」
妹の口から巣山って名前が出てきた瞬間・・・オレはすっごくすっごく恥ずかしくなって、かぁっと頭に血が上ってしまった。
「どーしたの、おにいちゃん・・・顔がまっかっかだよ?」
驚かれてしまって・・・思わずオレは自分の膝に顔を突っ伏してしまった。
うわぁ、恥ずかし・・・。小学生の妹相手に、ホンキで語っちゃったよ・・・。
でも、きっとこれは妹だから言えたんだろうな。沖にも、他のみんなにも・・・ちょっと話しにくい。たった一人の特定のチームメイトのことをこんなにかっこいいって思ってるなんて。
妹以外、誰にもこんな話はできないよ・・・。
「おにいちゃん、だいじょーぶ?」
ちらっと顔を上げると、ちょっと心配にオレを見ている妹と目が合った。
「ありがとう」
「?」
話しを聞いてくれて、ありがとうって意味だったんだけどわからなかったみたいで首をかしげている。
それなら、それでいいと思ったんだけど・・・。
妹はにこぉっと笑って、同じだねって言われた。
今度は、オレの方が妹の言ってる意味がわからなかった。
「わたしはまことくん好きだけど、おにいちゃんはすやまくんが好きなんだね」
「えっ!?」
「え?違うの?」
うっと詰まった。そりゃ・・・その・・・。
「好きだよね?」
念を押されるように聞かれてしまい、思わず頷いた。
「やっぱりそうなんだ!おにいちゃん、すやまくんのこと好きなんだね!」
ってあの子供特有の高い声で言われてしまって、オレは唇に立てた人差し指をくっつけて『しーっ!内緒、誰にも内緒だから!』と小学二年生の女の子相手に必死になって訴えた。
すると、妹はにんまり笑ってわかってるって顔をして、オレと同じポーズで『しぃ〜、ね!しぃ〜!』って言いながら何故か喜んでいる。
なんか、はやまったかな、オレ・・・。
「今度、おにいちゃんお休みの時、一緒にケーキ作ろうね!クッキーは作ったから、次はケーキ!」
どうやら、妹は自分で作ったケーキをまことくんにあげたいらしい。今度の休みは一緒にケーキを作ることになりそうだなぁ。
「すやまくんにも、あげようよ!」
「えぇえ!?」
とんでもないことを言い出されてびっくり仰天するオレを横目に、妹はもうやる気満々だった。
うきうきとソファから立ち上がって台所の母さんのところに飛んでいってしまった。
ああ・・・あの子、さっきのことちゃんと内緒にしてくれるかな?頼むから、親には言わないでね。って、いうかあの子の『好き』ってどいういう意味の『好き』なんだろう・・・?そもそも、オレの巣山が好きっていうのは、どういう種類の好きなのかな?
そんなことを一瞬考えたけど、すぐにやめてしまった。
「おかーさん!お菓子作りの本ある?」
妹の喜色万遍な声がきこえて、そっちに気がいってしまった。聞こえてきた内容に、妹がどこまでもホンキでケーキ作りをする気だということを確信した。末っ子体質なのか、言い出したら聞かないっていうガンコな一面があるんだよな。
って、ことはホンキで妹は巣山の分のケーキも作るんだろうな。
三橋の誕生日、あの時、巣山はどうだったっけ?作って渡したら、受け取ってくれるかな?でも、どうだろう甘いものとか好んで食べるようにはあまりみえないけど・・・。
巣山はケーキ、好きかな?
そんなことを、オレはいつの間にかすごく真剣に考えていた。
END
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