Platonic Distance -Preview-


−−−前略−−−

「迅は贔屓されてる!慎吾さんに!」
 コレを聞いた瞬間、ムカッときた。
 別に、オレなんかを慎吾さんは贔屓してねぇよ。むしろ、利央の方がずっと慎吾さんにかまってもらってんじゃんか。
 それに・・・オレはそのヒイキって言葉がキライなんだよっ! 
 利央に、悪気はないのはわかってるけど・・・かなり腹がたった。
 オレは、野球やってて、小学生から中学生までずっとその言葉を影で言われ続けてきた。今回は野球に絡んだことで言われてるわけじゃないってわかってたけど、とにかくその言葉自体がダイキライなんだ・・・って、いうか言われるとガラにもなく傷つくんだよっ!
 なんか、一言言ってやろうか思った時に、慎吾さんがちらっとオレを見たような気がした。
 でも、すぐに利央の方を向いた。
 そういうことだよ。慎吾さんはオレなんかより利央を見てる。普通はみんな、そうだ。
「利央、べつに贔屓なんかじゃないぞ」
「うそだあ!」
 慎吾さんは拗ねる利央にニコッと笑いかける。
「嘘じゃねぇって。ただ、迅のベルト外していいのはオレだけなんだよ。ついでに、押し倒したり、その下のフロントボタン外していいのもジッパー下ろしていいのもオレだけなんだ。な、迅?」
 利央に向けられていた笑顔が、急にこっちに向けられて思わずオレは・・・キョドった。
な、なんか今、すごいことを言われたような気がしたんだけど・・・でも。
『どーぞ』とばかりにベルトを差し出されて、オレはそっちに気がとられてしまった。
「あ、ハイ!」
って返事をした。すんません、と小さく頭を下げてベルトを受け取る。さっき、投げ出されたベルトを捕ってくれたのは慎吾さんだったんだ。
なんて、思ってベルトをカチャカチャやってると・・・。
「えーーーーっ!?」
 って利央の耳をつんざくような大絶叫。
 うっせぇっつーの!
「じじじじじっ、迅!」
 苦情を言い立てる前に、利央が大きな目をさらに大きくさせてオレに迫ってきた。
近いっ!お前、でかいから圧迫感があるんだよっ。
「い、いつから慎吾さんとそ、そんな・・・フシダラな関係になったんだよっ!」
 フシダラ・・・?それって、ナニ?
「は?」
「だ、だって・・・慎吾さんとまとまっちゃったんだろ!?オレにナイショで・・・!」
「へ?」
 まとまる?誰と、誰が?
「慎吾さんにもう、パンツ脱がされちゃったんだろ!?」
 ざわっと、一瞬教室がどよめいた。
 言われた言葉にオレの頭は真っ白になって・・・そんで、そんで!
「わーっ!わーっ!」
 と怒鳴りながらオレは思わず、ビターンッ!と平手で利央の横っ面を張っていた。
「っ痛ぇ〜〜〜!」
力の加減ができなかったんで、2、3歩よろめいた利央は女に「超カワイイ!」と言われる顔を抑えて悶絶した。
「ざけんなっ!んなわけあるかよ!」
 利央が顔を上げてふるふると震えながら、酷い!とオレをなじった。
うるさいっ。酷いのはどっちだ!
「だって、慎吾さんの言葉にハイって言ったじゃんかよ!」
「はぁ!?」
 コイツ、ホントなに言ってんだ?わっけわかんねぇよっ!
「だって、迅のベルト外していいのは慎吾さんだけなんでしょ?迅はさっき、ハイって返事したじゃん!」
「ばっ!そういう意味じゃないっつの!」
 ベルトを差し出されたから、それを受け取った時に自発的に出ちゃった言葉なんだよっ!だいたい、オレが慎吾さんに、べ、ベルトとかそのフロントボタンとか・・・外されたことがあるわけねぇだろっ!
 し、しかも・・・パ、パンツって・・・!ありえねぇ!!
「・・・ホント、慎吾さん?」
 利央はほっぺたを押さえたままぐりっと向きを変えると、今度は慎吾さんに詰め寄って行った。
 慎吾さんは窓枠に頬杖着きながら、ニヤニヤ笑ってこっちを見ていた。
 慎吾さん・・・絶対面白がってるよ・・・相変わらず、悪趣味だ。
「どーなのっ?慎吾さん?」
 利央がズイっと顔を慎吾さんに寄せると、
「どーかなぁ?」
 と慎吾さんも利央の顔に、ぐっと自分の顔を近づけた。その距離が凄く近くて、ぶつかってしまいそうなくらいで・・・オレは見ててハラハラした。またしも、教室の隅から黄色い声が上がる。
 うぉっ!
 あまりの近さにビビッた利央がヘンな声出してあとずさり、オレの生物の教科書をぎゅっと抱きしめてまるで自分の身を守るような格好をした。
ああ、もうあっちもこっちもホントうるさい!
「あ、あぶねー!近い、近い!危なく慎吾さんにクチビルを奪われるとこだった!」
 んなわけ、あるか。慎吾さんが野郎にキスなんかするかよっ!
 そんな利央を見て慎吾さんが声を上げてひとしきり笑う。
「やっぱ、お前らいいな」
 慎吾さんが、ちょっと目を細めてポツリと呟いた。
 その横顔が、何かを懐かしむような、とても大切なものを見るような目だったから・・・不意打ちに胸がキュンとなった。

PREVIEW END

*12月30日日発行予定の新刊のプレビューです。
詳しいことに関してはinfoをご覧頂くかメールでお問合せ下さいませ。
ここまでお読みいただき有難うございました!

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