「真ん中お誕生おめでとう、迅!」
「おわ!」
後ろから体当たりされてオレは危なく、壁に激突するところだった。なんとか、左腕を突き出し、ぶつかるのはさけたけど・・・おでこがごつんてぶつかった。
休み時間に、教室へ向かう階段の踊り場を歩いていているオレにこんなことをするヤツはい一人しか居ない。


「 プ レ ゼ ン ト 」


 
がばりと振り返って、思い切り睨んだ。こぶになってたらどうしてくれるんだ!いや、その前に、ここは階段だぞ!
「利央・・・!あぶねーな!落ちたらどうすんだ!」
「悪い!だって、そんなに簡単に吹っ飛ぶなんて思ってなかったからさ」
へらっと笑って誤魔化そうとする黄色い頭を見上げる。この、見上げるっていうシチュエーションも腹が立つ。
「別に、吹っ飛んでない!お前、でかすぎなんだよ!そんなのが突っ込んできら、誰だってよろめく」
簡単に吹っ飛ぶとか言われるとますますむかつく。
「和さんは平気だけど」
「馬鹿!和さん吹っ飛ばせるわけないだろ!利央なんか、和さんのブロックに吹っ飛ばされればいいんだ!」
「酷でぇ!せっかく、20日の真ん中誕生日を祝ってやろうと思ったのに!」
「祝う気持ちがあるなら、普通にしろよ」
なんで体当たりしてくんだよ・・・たまに利央と話しているとすっごく疲れることがある。
「だから、ごめんって。これ、あげるから許して」
利央が制服の尻ポケットから出したものをオレの目の前にちらつかせた。
なんだ?写真?
さっき、クラスの女が某アイドルグループのブロマイドを見てきゃーきゃー大騒ぎしてた。写真なんて、別にいらない。男でも、アイドルの画像をダウンロードしてわざわざ携帯の待ち受け画面にしたりするヤツいるけど、オレはそういうのはしないんだよ。そんなことして、何が楽しいのかさっぱりわからない。
「写真なんて、別に欲しくない」
写真を尻ポケットに入れるなよ、皺になるじゃんか。どうせ、いらないからいいけど。
興味がないから、写真に何が写ってるかなんて見もしないでオレが答えると。
「え〜?ホント?」
利央がむふっと笑う。なんか、頭にくる笑いだなー!
「これ、いらない?オレ結構苦労して手に入れたんだけど」
利央がしたり顔で、ずいっとオレの眼前にその写真を晒した。それを見た瞬間、思わずそれをつかもうと手が出た。
けど、意地悪利央はさっとそれを高く高くに持ち上げて、お預けをしてきた。オレは、一瞬その動きにつられて手を伸ばしたけど・・・届くわけ無い。今、写真は2mを軽く越える高さにあるんだから。
「なんで、利央がそんな写真持ってんだよ!」
「えへへ・・・某ルートで流してもらったんだよ。去年の文化祭で撮った写真みたいだよ。レアだけど・・・迅、いらないんでしょ?」
「うぅっ・・・利央!」
「いらないんでしょ、この慎吾さん」
利央がオレに見せたのは、慎吾さんの写真だった。
しかも・・・慎吾さんがギャルソンの格好をした写真だったんだ。きっと、去年の文化祭では慎吾さんのクラスは喫茶店でもやったんだろう。
ちらっとしか見えなかったけど、トレイをもってケーキかジュースをお客のテーブルに置こうとしているような写真だった。慎吾さんは、撮られてることに気がついてないのかもしれない。カメラ目線じゃなかったから。もっとちゃんと見たいんだけど・・・。腕を伸ばしても、届かないんだよ!利央のでかさがこんなことでも恨めしいっ。
「オレに、くれるつもりだったならもったいぶらなくてもいいだろっ」
腕をメいっぱい写真に伸ばす。届かないのは分ってるんだけど。
「だって、さっきいらないって言ったじゃん?」
憎らしくも、利央が必死になって写真を取ろうとするオレの手をさっとかわす。
アイドル写真はいらないけど、慎吾さんの写真はちょっと欲しいんだよ!
「お前、すっげむかつく!」
「迅、可愛くない!あげるのやめた・・・て、あれ?」
 取り合いをしている俺たちの後ろから、一本の腕が伸びてきて利央の持っている写真を奪った。
「「え!?」」
オレと利央はもつれ合いながら、略奪者の顔を見た。
「なにやってんの、階段踊り場のど真ん中で」
「「ヤマさん!」」
そこに居たのは青桐一行動が読めない男・山ノ井圭輔がいた。オレたちのいる踊り場からを見下ろすように、二段目の階段に立っている。二段目っていうのは利央の手から写真を奪うのに丁度良い高さの場所だった。
な、なんか・・・とんでもない人の手に写真が渡っちゃったような気がするんだけど。
オレは内心の冷や汗をかいた。
「なにこれ・・・ああ、この写真。去年の文化祭の慎吾だ〜」
写真を見ながらしれっとした顔でヤマさんが言ったから、オレと利央は顔を見合わせた。そりゃ、ヤマさんが知ってるのはおかしくないけど・・・。
「ヤマさん・・・その写真知ってるの?」
利央が聞くと、ヤマさんはいつものにこにこ顔で頷いた。
「だって、これ・・・頼まれて、オレが隠し撮りしたんだもん」
「「えー!?」」
「だって、どうしてもって言うからさぁっ。アレはいい稼ぎになったよ」
「・・・ってヤマさん?なにを、稼いだんですか!?」
あはは〜と笑うヤマさんに利央が突っ込んだ。
オレも何に使われたかちょっとは気になったけど、それよりも誰かが慎吾さんの写真の隠し撮りを依頼したっていう事実に複雑な気分になる。
慎吾さんは皆に好かれるし、もてるからこんな話もありだって思うけど・・・。
「で、迅はコレ欲しいの?」
「!!」
・ ・・欲しいけど、欲しいけど・・・ヤマさんに言ったらダメな気がする!
「迅・・・このギャルソンの格好した島崎慎吾が欲しいの・・・?」
写真をつまみ上げてオレに見せながら、ヤマさんがにこっと笑ってじりっと迫って。オレと利央は抱き合ったままずさっと後ずさってしまった。別に、利央がびびることはないんだけど・・・ヤマさんの笑顔の威力はそれくらい凄かった。
「迅は慎吾好きだね、あまり表にださないけど」
「えー?迅は慎吾さん大好きじゃないですか!」
「利央、うるさい!」
ヤマさんの前で余計ないことを言うなーってオレは焦って利央を止めた。オレは、慎吾さん好きだけど・・・好きな気持ちをあまり表に出さないようにしてる。慎吾さんだけじゃなくて、オレは自分の好きなものを他人に知られるのが好きじゃないんだ。利央にだけは、全部見られてしまってるけど。
「そんなこと・・・オレだけじゃくって皆慎吾さんのこと好きっすよ」
「うーん、多分前チンもマサやんも和もタケもみんな慎吾のこと好きだと思うけど、この写真はいらないと思う」
オレはそうなのかな?って利央見た。利央は「オレは欲しいかも」と言った。やっぱり、欲しいのは俺だけじゃないとほっとした。まぁ、ほっとするのも変な話なんだけど・・・。
「迅。利央は話のネタに慎吾のコス写真欲しいと思ってるだけだから。ミセモノだから」
ヤマさんの言葉に利央が頷いた。
「迅は、この写真をネタにするわけじゃないんでしょ?」
言われて頷く。
「じゃ、どうするの、これ?」
そこまで言われて、ハッとした。だって、何かに使おうなんて思ったわけじゃなくて・・・。
「ただ、欲しいだけです・・・誰にも見せないで、しまっておくだけですよ」
「ふうん、誰かに見せないんだ〜。なんで?」
「え・・・?なんでって・・・わからないけど・・・もったいないから?」
あまり、人に見せたくない。慎吾さんは、皆の慎吾さんだけど、写真はオレだけの写真だ。
「それで迅が一人で時折眺めるっていうこと?」
「はい」
って言ったら、ヤマさんがにたぁって笑って真上を向いて。
「今の、オレからのプレゼントね?」
って言ったから、オレと利央はさっぱり意味がわからなかった。
オレと利央は不思議に思って、再度顔を見合わせると揃って顔を上に向けた。
「超貴重無形誕生日祝だから、しっかり心に刻んどけよ、慎吾」
ええ!?し、慎吾さん!!
丁度、オレ達のいる階段の踊り場よりひとつ上の階の踊り場から、慎吾さんがこっちを見下ろしていた。
慎吾さんは、口元を押さえて笑いたいのを堪えるような顔をしてた。
「さんきゅー、ヤマちゃん。超感謝」
うわっ!すっげ、恥ずかしい!全部聞かれてたのかな・・・?凄い、いたたまれない・・・。
「で、迅」
「え?あ・・・、ハイッ」
「そんな顔しないでいいじゃん・・・困った顔して、真っ赤になって。かわいいけどさ。あ、デコ赤くなってンのは照れてるからじゃないんだね。ぶつけた?」
「・・・」
ヤマさん、からかわないでください・・・。っていうかてんぱちゃっておでこのことは答えられなかった。
ヤマさんはポンっとジャンプして階段から飛びおりて、すとっとオレの隣に着地した。
「ホイ、これはオレからのプレゼント」
って言って、オレの掌に、さっきの写真をぽむっと乗せた。
「じゃ、迅も慎吾も真ん中誕生日おめでとうってことで」
そういうことで、と片手を上げてヤマさんはいつものにこにこ顔で去っていった。
入れ代わりに上から慎吾さんが降りてきて、オレの肩をぽんと叩いて、「よぉ、迅」と言った。
オレは「うっす」って挨拶し返した。帽子を取ろうとしたけど、練習中じゃないんだから当然帽子なんか無い。
帽子のつばをつかもうとして・・・掴めなくて、手の行き所が無くて、仕方なく頭をかいた。
ぜったい、ぜったい・・・顔が赤くなってる。真っ赤だ・・・やだな。
思わず、貰った写真を胸の前で両手で持って、もじもじとしてしまった。慎吾さんも慎吾さんの写真も直視できない。
慎吾さんがオレを見て笑う。
慎吾さんに笑われるのは、嬉しいけど恥ずかしい。慎吾さんの笑顔の意味なんて、いつもわかんないけど、いつも嬉しくて、恥ずかしくなる。
それで、すごくすごく心臓がドキドキする。
さっき、ヤマさんが言ってた『迅は、この写真をネタにするわけじゃないんでしょ?』って言葉をふと思い出した。
オレは顔を上げて、慎吾さんを見る。
慎吾さんは、野球してる時が一番カッコイイけど、こうして制服着て普通にしてるときもカッコイイ。
そう思ったら、ドキドキが加速した。このドキドキはどこから来るんだろう?
オレ、心臓壊れちゃうんじゃないか?
あまりにもドキドキがすごいので、隣で利央が「ヤマさん、オレが持ってきた写真なのに、あの写真をネタに全部美味しいところ持ってたよ。すげぇ!すげぇよ、ヤマさん、マジすげぇ!」というわけのわからない感動して騒いでいるのなんか、全然耳に入ってこなかった。


END
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