satray sheep -preview-


 隣のシャワーブースからコックが捻られる音がして、オレは頭を洗っていた手を止めた。
 耳を欹てているとシャワーの流水が、タイルを叩く音が聞こえてきた。確かに、隣に人がいる。
 一人でシャワーを使いたくて、最後の一人が出て行くのを確認してから入ったって言うのに。
 ちっと舌打ちしそうになったけど、隣が誰でも別にいいと思った。どうせ、三年生はもう全員帰ってるはずだ。
 厳密に言うと一人でシャワーを使いたいというわけじゃなくて、和さんと一緒にならなきゃ、それでいいんだ。
 こんな場所で、一緒になったらたまらない。
 前は、他のヤツが一緒にいる時なら大丈夫だと思ったから、わざと込み合ってる時にシャワーを使ってた。大体が年功序列でシャワーを使う順番を決めているけど、二年と三年はだいたい入り混じってしまう。その時に、間違っても隣同士になったりしないように、気を使ってたから、隣同士でシャワーを使ったことはなかった。
 それはなかったけど、和さんの次にシャワーを使ったことがあった。
 本当は誰かに順番を譲ってしまおうかとも思ったけど、そうしなかった。オレの次に待っていたのが利央だったからだ。
 利央は馬鹿で一生懸命で桐青のみんなのことが好きで、オレと和さんのことも好きだ。
 オレも利央のことは、嫌いじゃない。多分、可愛いとも思ってるし・・・色々な意味で助けられている。
 けれど、利央は・・・和さんを好き過ぎる。和さんと利央が二人だけで一緒にいるところを見ると、なんだか背中がじりじりするんだ。
 だから、その時は順番を譲りたくはなかった。
 オレは和さんの使った後のシャワーブースに入った。和さんとすれ違ったけど、なるべくそっちを見ないようにして、何にも考えないで早くシャワーを浴び終えることだけを意識していた。
 流水を頭から浴びながら、なんとはなしにその流れを目で追った。
 体を伝い流れ落ちていく湯は、やがてタイルに広がり排水溝へ吸い込まれていく。
 なんだ?くすぐってぇな?
 足の甲を何かが擽るような感じがして、見てみると黒い一本の髪の毛が濡れた肌に張り付いていた。
 よく見ると、他にも数本の髪がタイルに落ちている。
 その黒くて張りのある髪は、オレほど長くもなく、タケほど短くもなかった。
「あ・・・」
 和さんのだ、と思った。
「う・・・」
 そうしたら、もう駄目だった。
 周りで誰が今日の練習中に怒っていた監督のマネをして、タイル張りのシャワールームに笑い声が響いていた。
 そんな中で、オレは勃起した。
 オレの日に焼けていないなまっ白(ちろ)い足の甲に黒々とした一本の黒髪が絡むように畝って張り付いているのを見て、それが和さんの名残だと思うと・・・情けない話だけど、体は正直すぎるくらい反応した。
 それを収めるのに、それはもう大変だった。扱いて射精(だ)すのはヤだったから、自然に収まるまで待っていた。そしたら、結局シャワーからあがるのが一番最後になっちまったんだ。ほっときゃ良いのに、周りが『準太、ゆっくりしすぎ』とか『シャワーでマスでもかいてたか?』とかすっかり着替えた先輩たちや同級生にからかわれた。あたらずしも、遠からずってとこだったからオレはすげぇ居心地悪い思いをした。
 それ以降、オレは全員がシャワールームから引き上げた後にシャワーを使っている。

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*2月3日の桐青夫婦茶碗おかわり!発行予定の新刊のプレビューです。
詳しいことに関してはinfoをご覧頂くかメールでお問合せ下さいませ。
ここまでお読みいただき有難うございました!

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