「え・・・?」
と、思った瞬間に全ては終わっていた・・・。
「迅のクラスに持ってけば貰えるんだろ、景品?」
トラブル・桐青・フェスティバル 3
慎吾さんがしてやったりという顔をして、携帯を軽く振って見せた。液晶には、オレの間の抜けた顔が映っていて・・・すっげ、ありえねぇ!
「〜〜〜〜!!!」
やられた!
「慎吾さんいいなぁ!オレ、さっき撮らせてもらえなかったんすよ!後で、写真送って!」
冗談じゃない!利央なんかに写真を送ったら何をされるかわかんない。
「絶対ダメ!」
オレが叫ぶと、利央がいいじゃんか、女装写真くらい!って言ってきた。女装に自信があるお前はよくても、オレは嫌なんだよ女装した写真撮られるなんて!っつか、普通は誰だって嫌だ!
「あはは、残念。迅にダメって言われたから送れないな」
慎吾さんは利央に写真を送るつもりが無いみたいで、それはそれでほっとしたけど・・・あんな恥ずかしくてみっともないモンが慎吾さんの携帯にあるってこと自体が絶対に嫌だ。
「慎吾さん・・・写真、データ消してくださいよ!たのんますよ!」
オレが必死になってお願いするけど、慎吾さんはのらりくらりとかわすだけで真剣にとりあっちゃくれなかった。あぁ、なんでこんなことになっちゃったんだろ・・・。あんなに皆に会わないように注意してたのに。よりによって、慎吾さんに会ってしまうなんて。挙句の果てに写真まで撮られて・・・人生の汚点だ。
ああ・・・ホント、油断した。
でも、いつだってこんな風になるような気がする。いつだって、慎吾さんにしてやられてるんだ。オレ、野球だけに限らず、慎吾さんに勝てたことなんか一回もないんじゃないか?
うーん、と唸っていると、和さんが椅子を勧めながらオレに、「はい」と割り箸を渡してくれた。
オレは腰をかけてしばらく箸とにらめっこしたけど、準さんがうまいうまいと言いながら食べているので、なんだか慎吾さんのことばかり深く考えているのが妙に恥ずかしくなって、ぱちん!と勢いよく割り箸を割って「いただきます」挨拶してから、お好み焼きを口に入れた。
生地を噛むとふわっとした感触がして、次に程よく蒸された野菜の歯ざわり。ぺったんこに押しつぶされたお好み焼きしか食べたことのない俺には、ちょっとした感動だった。人間って美味しいもの食べると、機嫌よくなるよな、なんてうっかり思ってしまった。
「美味い・・・!」
と言ったら、慎吾さんがにこっと笑った。
「これ、慎吾が焼いたんだ」
和さんが準さんの紙コップにお茶を注ぎながら、教えてくれた内容に・・・オレは、もう本当に天を仰ぎたい気分だった。
本当に慎吾さんに驚かされっぱなしのやられっぱなしだ。
「本当は、オレが焼く係りじゃなかったんだけど、急遽な」
「すっげ、慎吾さん料理できんの!?」
利央が目を丸くしている。
「ちょっとくらいはな。それに、これはそんな大層なもんじゃないだろ?」
「無駄に器用ですよね、慎吾さんらしい」
準さんがお好み焼きを頬張りながら、変な褒め方をした。
慎吾さんは、なんだそりゃと言って笑うと、
「ま、祭りだからさ。普段しないことをたくさんして・・・楽しまなきゃ、損だろ。な?」
瞳だけをちらりと動かしオレに流し目をくて・・・小さく片目を瞑ってみせたのだった。
「っ!!」
おかげで、オレは数秒間の空白の後、大きくむせてしまい和さんを心配させる羽目に陥ってしまった。利央も準さんも、何でオレがむせたのかと、不思議がって聞いたけど・・・答えられるわけないっつの!
ああ、もう・・・!桐青高校1年目の文化祭は、こんなんばっかりだ!
でも・・・このトラブルだらけの文化祭がオレの3年間の文化祭の中で1番楽しい思い出になるんだろうな・・・。
桐青の制服を着て、お好み焼きを食べながらみんなと談笑する慎吾さんの姿を見ながら、そんなことを思うのだった。
END
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