オレは、右隣にいる暖かい手の持ち主を意識しまくっている。
 閉じた目を、開けたくてしょうがない。 
馬鹿なこと考えてるよな、オレ。練習中だぞ?
 自分に文句を言いながらも、やっぱり気になる。あの後の授業もちっとも集中できなかった。それなのに、教師にしょっぱなからさされてしまってひやっとした。古典じゃなかったら、絶対答えられなかったと思う。
 瞑想中に、なにやってんだって思ったけど、こんなに至近距離で本人に変に思われないで顔を見ることなんて、なかなか出来ない。
今が、チャンス。


FACE A DENGER 2



 水谷はカッコイイって、言われるほどカッコイイか・・・?いっつも、ゆる〜っとした顔をしてて、カッコイイって感じじゃないんだけどな。それにジャニ系というものが、オレにはそもそもよくわかんないんだけど・・・具体的にどんな顔をジャニ系っていうんだろう?
 どうしても我慢できなくって、彼女がべた褒めした顔を、ちらりと盗み見た。
「・・・っ」
 オレは、すぐにぎゅっと目を閉じてしまった。
 え、え〜!?だって、だって・・・!
 すっごい、びっくりしたんだ。もう、ホント恥ずかしくって見てられなかった。
 わっ!わっ!わーっ!
 って感じで心の中では叫びまくってる。オレ、顔が熱い・・・っ!
 水谷って、こんな顔だったんだ!!
 ふわふわっとした優しい茶色の毛先が、閉じられた目を縁取る睫毛にかかっていた。緩くうねる毛先が、長い睫毛に僅かに押し上げられている。頬から顎の線は、すらっとしているのに、ほんの少しだけ丸くって、子供でも、大人でもないような不思議な感じがする。口元も筆で書いたみたいに整ってて、いつもの子供っぽさが冗談みたいだ。
 水谷って、こんな綺麗な顔してたっけ!?
 も、もう一回見るぞ。オレの見間違えとか気の迷いかもしれないし!
 って思いながら薄く目を開けて見た横顔にやっぱり気が動転してしまった。
 やばい・・・オレ、すっごいドキドキしてる。滅茶苦茶ドキドキしはじめちゃってる。
 やだな、どうしよう。
 どうしようっていっても、どうしようもないんだけど・・・。いや、落ち着け、自分。そもそも『どうしよう』なんて、困ることなんかないんだから。
 ああ、でも・・・!
「はい、終わりだよ!」 
 シガポの声がして、瞑想の時間が終わってしまった。
 ああ、もう・・・ホント、何してるんだよ、オレは。ちょっとガス抜きしなきゃ。
 左隣のヤツがオレの手を放したと同時に右手を放した。それで、さりげなく水谷の横から移動しようとした。行き先なんて、どこでもいいんだ。とにかく、水谷の『顔』が見えないところならば!
 さっと、踵を返そうとしたところを・・・クン、と引っ張られた。
「え?」
 腕首を、捕まれる感触にちょっとびっくりして振り向くと・・・。
「栄口・・・どうしたの?」
 最悪なことに、水谷捕まえられてしまっていた。
 練習帽のつばの下にある、アーモンド形の綺麗な目がじとっとこちらを見ている。
 やだな・・・いつもと同じ子供っぽい表情なのに、カッコよく見えら。
「なんでもないよ・・・」
 手、放せよ。なんか、恥ずかしいから・・・。
 ああ、ホント・・・やだ。こんなことなら、隣の子の話なんか聞かなきゃよかったよ。
「なんでもなくないよ。だって、栄口の手が途中から冷たくなったもん」
 オレ、緊張してたのか・・・?緊張したってこと自体がもう、なんか・・・すげぇ恥ずかしいよ。それにしたって、水谷はヘンなところで気がつくなぁ。いつも、こんなに鋭くないのに。
「調子悪いの?それとも、何かオレに、その・・・言いたいこととか、ある?」


NEXT

-Powered by HTML DWARF-