「う・・・やだ、オレ・・・またやっちゃった」
 オレは、ベッドの上で寝巻きのジャージと一緒にパンツのゴムを引っ張って、パンツに白くこびり付いているヨゴレを寝ぼけ眼で見ながら、朝から泣きたくなった。
 これ、きっと夢精ってヤツだ・・・。




「 は じ め て の 1 」





 高校に入ってから、朝起きたらパンツを汚しちゃっていたことが何度かあった。その時は頭が真っ白になって、変な汗がいっぱい出てきて、半泣きになりながら白く汚れたパンツを紙袋に丸めて詰め込んで、ゴミの日に人目を気にしながら捨てた。そのまま朝練に行って、投げたら阿部くんに『お前、どうしたの?』っていわれるくらい酷かった。
 こんなことばかりが続いてしまったら、チームには迷惑かかるし、阿部くんに呆れられるし・・・監督にはピッチャー降ろされてしまうかもしれない。そう考えると、これは凄く重要な問題だ。
 それに、パンツの替えも少なくなっちゃうし、お母さんにもヘンだって思われれちゃう。
 どうしよう、ほんとうにどうしようって悩みながら何日がたった頃、田島君がオレに「どうしたんだよ?」って話しかけてきてくれた。
 それは、体育授業でバスケットの試合を見ながら、得点係でスコアーをつけていた時のことだった。
近くには人はいなかったし、人数の関係で試合に出ていない人は、皆熱心に試合の観戦をしていたから誰にも聞かれる心配はなかったけど、勿論オレは『夢精して、困るんだよ』なんて言いにくくて、でもどうにかしないといけないこともわかってたらおろおろした。
「あーあ、体育が出来ねぇと、なんか、まともに受けてる授業ってないよなー」
 軽く手首を傷めていた田島君は、朝練の時に花井君に『今、体育はバスケットだから、ぜってー出んな!他にも、手首に負担かけるようなことはすんなよ!部活も、お前は特別メニューだからな!』と言われていたから珍しく体育見学してた。
「浜田、ナイシュー!」
 って言う声がコートから聞こえて、オレは慌ててスコアーをぺらぺらっと捲った。
「で、どうしたんよ、ホントに」
 田島君が凄く心配してくれてる。オレも・・・田島君に相談したい。だって、他にそんなことを聞ける人なんかいない。なんかあったら、ちゃんと言えよって阿部くんはいつも言ってくれるけど・・・無理ですっ。言えないよ、阿部くんには言えない!
「あ・・・うぅ・・・あの・・・」
 って言ったら、田島君は「なんだ?」って俺をじっと見た。きっと、田島君は俺の話を一生懸命聞こうとしてくれてるんだ・・・だったら、オレも頑張って言わなきゃ!
「最近、よくあるんだけ、ど・・・朝、起きたらね・・・その・・・パンツが・・・」
「ああ、ムセー?」
「うおっ!!」
 いきなりズバッと言われてオレはぎょぉっとして、ひっくり返りそうになった。こ、声が大きいよ田島君っ!き、聞こえちゃうよ・・・!
 後ろからわぁっと声が上がって、振り返ると隣のコートで試合をしていた女子チームの誰かがシュートを決めているところだった。
「ソレで悩んでたのか?」
 聞こえてきた声は、全然オレたちの話のことじゃないってわかってほっとした。田島君は全く周りを気にしてないみたいだけど・・・。
「う、うん・・・」
 オレはちょっと声を小さくして頷いた。
「そか。三橋さ、ちゃんとオナニーしてるか?前はいつやった?」
 田島君が俺の首に腕を回してぐいっと引き寄せた。田島君の顔に散っているそばかすが見ながら、過去を思い返すけど・・・。
「シ、シてないかも・・・」
 オレは、積極的にソレをしたっていう覚えがない・・・言われてみると。
「してねぇの?ちゃんとしないとチンコ爆発するって!」
「ぇえ?!」
 ば、爆発って夢精のことだったの、田島君?
それに起きてる時に自分ですれば、夢精しなくなるのかな?身体の中に溜めとくより出しちゃった方が、夢精しにくくなりそうだけど・・・。
「とりあえず、寝る前に、ちゃんと抜くこと、いいな!」
「う、うー・・・」
 どうしよ、今夜シなきゃ駄目なのかな・・・お風呂でシテも、部屋でシテ落ち着かないよ。オレ、アレはあんまり好きじゃないし・・・最後までするには凄い時間がかかる。
「なんだ?」
「オ、オレ・・・あまり上手く出来ない・・・どうやってしたらいいか・・・」
 どうやったら、早く出せるのか・・・本当に分らない。どうしてもシなきゃなんないなら、さっさとヤって、さっさと終わりたいよ。それに、シテる最中なんだかとても悪いことをしているような気になっちゃって・・・うう、やっぱり苦手。
「簡単だぜ、自分の好きなようにチンコ擦ればいいだけだもん。決まった方法はないぞ。三橋は、ちゃんと力入れて扱いてる?」
「あ・・・う・・・その・・・シなきゃオレ、変かな?時間、かかっちゃうし・・・面白くないし、ホントに皆してるの?」
 シなくてもいいよって言って欲しくて、イロイロと理由を挙げてみたけど・・・田島君の一言でオレの考え方がちょっと変ってしまった・・・。
「言わないだけで、皆してるよ。花井だって、泉だって、阿部だって・・・普通にやってるぜ。やらねぇ方が珍しいよ」
 あ、阿部くんも・・・してるの?
 あの爽やかな阿部くんがそんなことしてるなんて・・・今まで思ったこともなかった。
 でも、なんか・・・今日帰ったら、やってみようかな、なんて思うようになっちゃった。
「三橋んち、エロ本無かったから、今日はオレが貸してやるよ。とりあえずソレでしてみるといーよ」
「その・・・それって、皆どうやって使ってるの?」
「え?!おかずの使い方知らないの?!」
 田島君の丸くなった大きな目がオレをじっと見て動かなくなった。オ、オレ呆れられたのかも・・・ど、どうしよう。って、思ったら田島君はお前、好きな女いんの?って聞かれた。いないよって、首を振ると田島君はよしって頷いて。
「エロ本見て、興奮したりしねぇ?グラビアのねーちゃんにアレコレしたいって思わねぇの?って、うぁ?!」
 突然、田島君の口を塞いだのは真っ赤になって慌ててこっちに走って来た浜ちゃんだった。
「お、おい、なんて話してだんだぁ?!田島、授業チューだぞ、授業チュー」
「は、浜ちゃん・・・試合出てたんじゃ?」
「得点しても、スコアが動かないから、来たんだよ・・・そしたら、真昼間の体育の授業でこんな話してるから・・・」
 浜ちゃんはスコアを捲りながら困った顔をした。ご、ごめんね、浜ちゃん・・・。
「だって、三橋がおかずの使い方しらねぇっていうからさ」
「え?!」
 浜ちゃんが凄くかわいそうなものを見るような目でオレを見てる・・・。
「そ、そうか・・・まぁ、今の野球部じゃ女と付き合う余裕なんかないもんな・・・」
「浜田は女いんのか?」
「うぇ?!オ、オレは・・・まぁ、彼女はいないけど・・・そこは、それで・・・まぁ」
 赤くなって、ふにゃぁっと笑った浜ちゃんは、なんかオトナに見えた・・・。
「おい、お前らいい加減にしろよ」
 背後から声がして振り向くと、そこには泉君が恐い顔をして立っていた。
「ヒィッ・・・い、泉!!お、オレは・・・別に!!」
「うるせぇ。黙れ。お前は喋るな、一言も喋るな。役立たず。早くコートに戻れ」
「うっ・・・」
 よく分からないけど、泉君は浜ちゃんにすごい怒っているみたいだったけど、俺と田島君には『そんな話、今すんな』って言っただけだった。
 泉君、浜ちゃんとは中学校が同じだったって言ってたけど・・・仲が良かったのかな?悪かったのかな?
 浜ちゃんが『待たせて悪いー』と言ってコートに戻っていく後姿を見ていた泉君の顔は今までに見たことがない顔で・・・なんとなく気になったけど、それも授業が終わる頃にはすっかり忘れていた。
 

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