家に帰って来て、お風呂とご飯をすませると、オレはもう眠くて眠くて・・・すぐにでも寝ようとベットに横になろうとした。
 そしたら、ベットの脇に鞄があるのに気が付いて、どきんとした。



「 は じ め て の 3 」




 アレ、しなきゃ駄目かな。田島君にしろって言われたし・・・何より、明日の朝にまたパンツの中が大変なことになっていたら困る。お母さんが起こしにきてくれたら・・・見つかっちゃう。それは、絶対嫌だ。
 オレは、ベットの下にぺたんと座って、覚悟を決めると鞄を開けた。中に手を突っ込んで、中身をそこらへんに投げ出していく。
 手袋、ポイ。財布、ポイ。タオル、ポイ。角材、これは、投げちゃ駄目だからここに置いて。次、雑誌。
「・・・あった」
 オレは表紙と3分間にらめっこしてしまった。オレよりも5歳くらい年上の女の人が赤い水着を着て、足を大きく開いている写真だった。口紅の色も、爪の色も、妙に赤い。
 こ、この女の人と、オレと・・・何の関係があるんだろ?これで、どうしようっていうのかな?ドキドキはするけど・・・。
「う、うー・・・」
 よくわかんないけど、ずっとその女の人と睨めっこしててもしょうがないから、とりあえず中を開いてぺらぺらと捲ってみる。
「はぅっ!」
 中には、異様に短いスカートの看護婦さん姿の女の人やレースクィーンとかが載っていた。田島君が、『エロ本見て、興奮したり、グラビアのねーちゃんにアレコレしたいって思わねぇの?』って言ってたけど、オレはあまり思わないみたいだ・・・これって、おかしいのかな。皆これを見て興奮するのかな?阿部くんも、そうなのかな・・・って思ったらなんか凄く落ち込んでしまった。理由はわからないけど。同じように感じることが、できないから、かな・・・?
 ぺらぺらと1ページずつ捲ってぼうっとそんなことを考えていると、突然素っ裸の女の人が載っていてびっくりした。
「うっ・・・!」
 すぐにぱたん、と雑誌を閉じた。ヘンな汗が出てきて、おでこを腕で拭った。
 肌色が、強烈に目の残ってて、でもそれは興奮っていうよりもショックで、いけないものを見てしまったんじゃないかって凄く不安になったんだ。
 田島君、オレ・・・やっぱり駄目みたいだよ。
 なんか、とてもそんなことをスル気持ちになれなくなっちゃったよ・・・この雑誌見たら余計に・・・。
「寝よ・・・」
 オレは鞄の中から携帯を出して、ベッドサイドにある充電器にセットした。今まで、携帯電話なんか5日くらい放っておいても電池なんか切れなかったのに、最近は毎日充電したい気分になるんだ。メールしてくれる人が増えたから。もし、誰かからメール着てて電池が切れて見れなかったら嫌だから。
 それから、周りに出しっぱなしにしてしまったお財布とか角材を鞄にしまう。角材(この)上でワインドアップ出来るようになってから、スイングの軸が安定したと監督に褒められて嬉しかった。練習しすぎると阿部くんに怒られちゃうけど、オレは暇を見つけては角材(これ)の上に乗っかってる。
 汚れ物は、明日の朝に洗濯機に入れよう。そう思ってタオルを手に取ったら、黒いチーターのロゴが目に飛び込んできて、あっと思った。
 これ、オレんじゃない。・・・多分阿部くんのだ。間違って、紛れ込んじゃったんだ。もしかしたら、田島君がオレの荷物をしまってくれていた時かもしれない。このタオルは洗って返せばいいかな・・・?う・・・さっき、投げちゃったよ・・・ごめんなさい、阿部くん。もっとちゃんと確かめなきゃ、駄目だろ、オレの馬鹿。で、でも割れ物じゃないから・・・大丈夫だよね?
 オレはそのタオルを見て、先週の日曜日のことを思い出した。その日は練習試合で他校に遠征したんだけど、うっかりタオルを忘れてしまったんだけど、オレはそれに気が付かないで顔を洗っちゃったんだ。それで、タオルが無いのに気が付いて、どうしようって思ってた時に、「ほらよ」ってまるで、当然みたいにオレにタオルを差し出してくれた。あの時、凄く嬉しかった。中学の時は、誰もオレにモノを貸してくれる人なんかいなかったから。それに、阿部くん、自分が使う前にオレにタオルを貸してくれた。その時のタオルが、これだった気がする。  タオルからは自分の家の洗濯物とは違う洗剤の匂いがして、感動したんだ。ああ、これ阿部くんちの匂いなんだなって。それから、ちょっとだけ・・・阿部くんの匂いもした。どんな匂いかって言うと、説明できないんだけど・・・野球と整髪料の匂いかな?グラウンドとか、ミットとか、緑とか雨とかの野球の匂いに混じって、凄くいい匂いがするんだ。阿部くんの匂いは・・・時々こうやってオレをうっとりさせるんだ・・・。
 タオルを握り締めたまま、ぼんやり野球の匂いは阿部くんの手の匂いなのかもって思っていたらヒャリラリラ〜ンって携帯がなったので、慌ててベットによじ登って充電器から携帯をとった。
オレは、阿部くんのタオルを枕元に置くとピカピカ光る携帯を開けて液晶を見た。
「田島君からだ・・・」
 『三橋、ちゃんと抜いたか?』って書いてあるよ・・・。オレはうっとなった。やっぱり、やんなきゃ駄目なのかな。『やって・・・ない』って返信したら、30秒もたたないうちに『ちゃんとやってから寝るんだぞ!明日、できたかどうか聞くからな』って返信が来て携帯を持つ手が震えてしまった。
「うっ・・・やっぱり、やんなきゃ駄目なのかな・・・」
 明日、聞くって言ってたし・・・オレはどうしようかと悩んで、とりあえずやるだけやってみようと思った。田島君も、やったけど駄目だったって言えばきっと『そうかー』ってあっさり終わってくれるかもしれない。こ、これができないからって嫌われたりしないよ・・・ね?チームの皆や浜ちゃんや・・・阿部くんに呆れられたりしないよね?でも、出来なきゃ普通じゃないんだ。
 なんか・・・やっぱり、今日は頑張ろう。



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