「う、うぇ・・・田島君、ダメだったよ・・・」
早朝四時四十五分、部室の戸を開けると、どうだった、三橋?って聞いてくる田島君におはようの挨拶をするよりも早くオレは半泣きになりながらこう言った。


「 は じ め て の 7 」


 
「えーっ?ダメって、ナニが!?最後までできなかったってこと?それとも、気持ちよくなかったてこと?」
 田島君が鼻がぶつかりそうになるくらいまで近寄って、矢継ぎ早に言ったけど、そのどれでもなくて、オレは首を振った。
「そ、そーじゃ、なくて・・・」
「じゃあ、なに?」
「やっぱり、朝も・・・」
「ムセーしてたの!?」
 田島君がぎょろりと目を剥いて驚いた。やっぱり、オレ・・・ヘンなんだ!
 一人で俯いて、青くなっていると田島君は更にオレに詰め寄ってきたから、一歩下がってしまった。
「それってさ、前日の夜にちゃんとオナニーした?出した?」
「うん・・・」
「へぇ・・・すっげぇな!三橋ってゼツリンだな!」
「・・・」
「オレもさ、中学ん時とか、高校入ってすぐは二回とか三回とかしてたけど、五時からの朝練はじまってからは、一日一回しかできなくなったからさ。それなのに、二回って結構すげぇな!」
一回自分でシテ、次の日の朝にムセーするのがなんですごいのか、わかんない。ゼツリンって言葉は正しい意味はよくわからないけど、なんかあまり良い意味じゃないような気がする・・・。
「・・・朝、大変だった。パンツ、汚しちゃって・・・捨てた。こんなんじゃ、パンツがなくなっちゃう、よ」
「え?ムセーした時、パンツ捨ててんのか?」
「うん・・・捨てないの?」
「洗うって、普通洗う!洗面所とかで水洗いすればかなり落ちるもん。その後、洗濯機につっこむ。じゃなきゃ、あっという間になくなるぜ」
「!」
 洗うん、だ!そうか、洗えばいいんだ!
 ぱぁ〜って、目の前が明るくなった。
 オレのパンツは、洗えばいいんだけど、阿部君のタオルは・・・洗って綺麗にしてもやっぱり、そのまま返せないよ。それは、ダメなような気がする。
「でも、ムセーすっと朝に始末するのが面倒だから、前の日の夜に二回やっとけばいいんじゃん?」
「えっ!?」
 そ、そんなのムリだよ・・・一回だって大変だった。それに、やっぱりオレはあ「まり一人でするの好きじゃない。また・・・阿部君に怒られる夢を見ちゃいそうだ。
「って、いうか自分でしたのは気持ちかったか?」
「す、すごく・・・」
「すごく、なに?」
「・・・すごかった、よ!」
「ナンだよ、それー」
 ナンだって、言われてもそれ以上は説明できないよ。
「おかず、使った?」
「ざ、雑誌?」
「うん」
「あ、ちょっと・・・見た、けど・・・」
「けど?」
「よく、わかんなかった」
「ふ〜ん。ぴんと来なかったんだ。あの雑誌、三橋の好みじゃねぇのか。だったら、何使ったの?」
「使うって・・・何も・・・」
「三橋さ、自分でする時、なんもソーゾーしないのか?」
「そーぞー?」
「うん、例えば可愛い子を脱がしてるところとか、自分とその子がえっちしてるところとか。そういうの、おかずっていうんだぜー?想像しながら、チンコ擦るんだよ」
 説明に、ちょっと疑問を感じて、オレは聞いてみた。
「それって、声も・・・?」
 声も、オカズに入るんですか?
「声も、そーだろうな。ゲンミツに」
 あ・・・それじゃ、オレのおかずは阿部君だ。
 だって、阿部君が『好きだ』って言ってくれた声が聞こえてきて、それで凄いことになっちゃったんだから。
「それなら、ある、よ」
「そうなんだ。へぇ。三橋って、ゼツリンな上に、マニアだな!声だけだなんて!なー、花井?」
 くるりと、後ろを振り返って着替えていた花井君に同意を求めた。
「・・・俺を巻き込むな」
「えー?そう思わねぇ?」
 花井君は帽子を深々と被って、無言で出口の方へ向おうとした。そして、他にも着替えをしてた巣山君、沖君、栄口君なんかもなんだか、こそこそとしている。
 阿部君は、いない。
 いつも、早くから来てるからもうグラウンドへ行ってるんだ。ここにいない、皆ももうグラウンドで準備を始めてるんだろうな。
 なんか、阿部君にこれから会うんだーって、思うとドキドキする。きっと、昨日のことが原因だ。どうしよ、タオルのことがばれてお尻叩かれたら。
「だって、花井、声だけでイケる?オレ、今日やってみっから、花井もしてみて?な!」
「な!じゃねぇよ!ふざけんな!お前らの話を聞かないふりしてやってんのに、なんでこの思いやりがわかんねぇんだよ!頼むから、巻き込むなよ、オレを!」
 田島君と花井君の言い合いを横目に、巣山君がそっと戸を開いて外に出て行った。その後に、沖君と栄口君も続いていって・・・結局残ったのはオレと田島君と花井君だけになった。
 オレは二人の話を聞きながら時計を見た。
「!」
 う、あああ!五時過ぎてる、よ!練習はじまっちゃう。
 花井君も田島君も着替えてるけど、オレ・・・着替えて、ないよ!
 まだ、何か話をしている二人から離れて、自分のロッカーの前まで来た。鞄のファスナーも開けずにとるものもとりあえず、慌ててシャツを脱ごうとした。そして、ボタンを三つほど外して、手が止まった。
 朝、動揺したり、後片付けをしたりして、時間がなくなってTシャツを下に着てくるの、忘れちゃったんだっけ。シャツの下が裸だ。アンダーを着るから練習中は問題ないなと、シャツの前を開いたら、自分の胸にぽつりと赤くなっている乳首を見えて・・・あ、って思った。だって、乳首が勃ってる。そういえば、ここ擦れて痛かったんだよ、昨日の夜。
 なんだか、今もむずがゆい。けど、掻いたら痛そうだな・・・なんて思っていたら。
 バン!
 って、音がして戸が開いた。

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