「オイ、何してやがる!」
同時に、阿部君の怒鳴り声が部室の中にびぃぃんって響いた。
う、あ・・・怒ってる!!阿部君、怒ってるよ!
ど、どうして?あ・・・も、もしかして・・・タオルにかけちゃったのを怒ってるのか!?
「 は じ め て の 8 」
「花井、田島!早くグランド行け!」
阿部君は二人にガーッと怒鳴った。花井君は『悪い悪い!今、行く』って言ってニコニコ顔でさっさと部室から出て行ってしまった。勿論、田島君もそれを追っかけて行ってしまった。
ま、待って!置いてかないで、よ!
「三橋!」
ひぃ!
「てめぇは、遅刻か!?まだ、着替えてもねぇなんて!」
「ご、ごめんなさ・・・!」
阿部君が眉間にしわ寄せながらこちらへずんずんと歩いてくる。オレは、心臓が壊れるじゃないかって位ドキドキした。
「お前、トロイんだよ!」
怒られて、思わずオレはお尻を押さえた。お尻、叩かれたら嫌だ。叩かれて、勃起しちゃったら、もっとカッコ悪い。
「ケツ押さえて、何やってんの、お前?」
阿部君が、オレの目前でわけわかんねぇって顔してる。
「ご、ごめんなさい!オ、オレちゃんと、5倍返し、します、よ!」
阿部君は、タオルを5倍にして返すって言ったらお尻を撫でて許してくれた。だから、オレは必死にそのことを伝えた。
で、でも・・・あれ?なんか、オレは夢と現実がごっちゃになってる?
「はぁ!?わけわかんねぇこと言ってねぇで、さっさと着替えろよ!練習始まっぞ。ホラ、そんな半端な格好してると、体冷やすからな」
阿部君はふぅ、と溜息をついてオレの胸を見た。
「!!」
そして、何故か口元が引き攣った。
「?」
なんで、そんな顔するんですか・・・?
「な、なんでお前ち・・・・」
「ち?」
阿部君は言いよどむと、頭をガシガシ掻いてそっぽを向いた。
ま、また・・・怒らせたのかな?でも、オレは何もしてない・・・はず。
「・・・寒ぃのか?」
なんか、珍しい。ごにょごにょって感じでカツゼツがはっきりしないね。
「平気、だよ?」
「じゃ、なんで・・・そんなんなってんだよ?」
ちらっと、阿部君がオレの胸元を見た。オレも、同じところを見た。
ち・・・乳首だ。
「き、きのう・・・擦れて痛くなっちゃったんだ、よ。そんで、今もちょっと変な感じなんだ」
本当のことを言うと、阿部君は一瞬にして赤くなり、次は青くなった。
「な、なんで擦れるんだよ、んなところが!」
オナニーしてたら、たまたまそうなっちゃたんだよって言おうとしたけど、頭の中で『三橋廉のオカズは阿部君だよ〜っ』っていう声がしてなんだか言えなくなっちゃった。
阿部君の顔色を窺うと、眉間にふか〜く皺を寄せて、歯を食いしばった怖い顔をして目を閉じていた。
や、やっぱり怒ってる!って、いうか怒るの我慢してる!
阿部君、タオルのこと気がついたのかもしれない。ううん、それだけじゃなくてきっと、阿部君がオレのおかずだっていうこともわかったんだ・・・阿部君をおかずにすることはきっといけないことだったんだ!
阿部君は動かない。一箇所以外は。その一箇所って言うのはこめかみで、血管がぴくぴくしてる・・・。
オレは、泣きたくなった。 でも、泣くことはなかった。
「おい阿部、遅いからって呼びに行ったお前がこんなところで油売っててどうすんだよ」
って、泉君が部室にひょっこり顔を出したからだ。
「泉・・・」
阿部君はどこかホッとした顔をして、泉君を見た。
「早くしろよ。もう、グラウンド整備が終わったぜ?三橋も、着替え、急げよ」
オレたち二人を一目見て泉君は、さっさと戻って行ってしまった。
「ああ、オレも行く。三橋、待ってっから早く来いよ!」
阿部君は、オレを見ずにそう言うと、踵を返した。
「あ、阿部く・・・」
話しかけたけど、オレのことなど振り向かずに走って部室を出て行ってしまった。
「ちっ!三橋がTシャツ着てなかったせいで、ミイラ取りがミイラになったぜ・・・」
という、謎の言葉を残して・・・。
ど、どういう意味なんだろう?
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