「牛乳のおかわりいるひと〜!」
 マネジのしのーかさんが紙パックの1リットル入り「モーモー牛乳」を両手に持って、座っておにぎりをがっついてるオレたちの間をゆっくり歩きながら聞いて回っている。
「はい!はい!」
 田島君が空っぽになったプラスチックのマイコップ(オレたちはそれぞれコップを持参してるんだ)を頭の上に持ち上げて『おかわり』をアピールしてた。
「オレも貰う〜!」
「こっちも!」
 続いて、栄口君、泉君も手を上げた。みんな、どんどんおかわりしてる。
 オレも、欲しいけど・・・まだ少しコップに牛乳が残ってるから、今は、まだいいかな?阿部君は、おかわりするのかな?なんて思ってちらって隣を見たら、ばちっと目が合って、うぉってなった。


み る く 1



 ま、まさか・・・オ、オ、オレの方、見てるなんて思わなかった、よ!
「んだよ?」
 キョドったオレに阿部君のいつもよりちょっと低い声が聞こえてきて、首を振ろうとしたけど、その動きをすると阿部君の機嫌がもっと悪くなるということを栄口君から教えてもらっていたから、慌てて首の動きを止めた。
「何でもナイよ!」
 阿部君はジトっとした目でオレを見る。あ、怪しまれてる・・・!ほ、ほんとになんでもないんだよ!
「まぁ、いいや。それより、お前、もう一杯飲んどけ」
 阿部君はごきゅごきゅって咽喉を鳴らしながら、自分のコップに残っていた牛乳を飲んだ。
 ハイネックのアンダーの下に隠れているからよく見えないけど、黒い布を押し上げる小さな咽喉仏が阿部君の顎から首に繋がる線の上にあるのがわかる。
阿部君が牛乳を飲む度にアンダーの布に隠れた咽喉が、ちいさく動く。ひく、ひくって動いている。
阿部君の咽喉、すごく柔らかそうだ。
触ってみたいな・・・阿部君のひくっひくってしている咽喉の温度とか動きを手でじかに触って確かめてみたい。
ちょっとそんな風に思ったけど、とってもそんなことできるわけないからオレは自分の首を触ってみた。
柔らかくてあったかいけど、なんか阿部君のとは違うような気がする。咽喉仏を押すと、うぇってなりそうになった。
やっぱ、阿部君にしなくてよかった・・・。
「篠岡!まだ、残ってる?」
 コップを空にした阿部君が顔を上げて、しのーかさんを呼んだ。
「あまり残ってないよ。うーん、一杯分?辛うじて一杯半くらいあるかな?」
 しのーかさんが、右手に持っていたモーモー牛乳の紙パックを左右に振ると、ちゃぷちゃぷっていう軽い音が聞こえてきた。
「あ!じゃあオレ欲しい!最後の一杯ちょーだい!」
 しのーかさんが立っていた足元に座っていた水谷君が、声を上げた。
「ざけんなっ、米が!テメェは米のとぎ汁でも飲んでろ!オレが欲しくて先に篠岡に声掛けたんだ!横取りすんな!」
 阿部君がくわっと目を逆三角形にして怒り出した。
「ひどっ!いいじゃんか!一杯半あるんだから!」
 水谷君が必死で欲しい〜、欲しい〜!ってやってる。
水谷君、オレそういうの、一昨日行った大型スーパーの玩具売り場で見た、よ!それにそっくりだ、水谷君。
「ダメだっつってんだろ!」
「なんで!」
「コップ一杯しか飲んでねぇオレと三橋でその残りの一杯半分の牛乳を分けんだよ!文句あっか!?あぁっ!?」
「・・・ありましぇん」
 水谷君がさめざめとした表情で膝を抱えて小さくなった。
 水谷君、そんな牛乳飲みたかったのか・・・?そんなら、オレの分あげてもいいんだけど、な。
 そんなこと考えたら、オレの後ろに巣山君と座ってた栄口君が立ちあがった。
「水谷、ほら・・・オレの分を分けるよ?いる?」
 泉君の隣にいる水谷君のところまで行くと栄口君がそうやって声をかけたから、オレは感動した。
 やっぱり栄口君はいい人!
「う・・・栄口ぃ!!」
「おわ!」
 水谷君が座ったまんま、目の前に立っていた栄口君の膝にがばっと縋りついた。
 隣にいた泉君が「げぇ」って声を上げて顔を拭った。
「何やってんだ、水谷!離せよ!零れる、零れる!っつーか、零れてる!」
 よろけた栄口君のコップから牛乳がちょっとだけ零れて、それが泉君に降ってきたらしい。
 それでも、水谷君は栄口君の膝に抱きついたまま離さなかった。
 あ!ますます似てる、ね!この間の大型スーパーの玩具売り場で見た子供は、最後におかーさんにそうやってたよ!でも、玩具、買ってもらえなかった。けど、水谷君はちゃんと牛乳もらえたね、よかったね!
 泉君にべりっと力尽くで剥がされた水谷君のコップに、栄口君が苦笑いしながら自分のコップに入ってる牛乳をとぼとぼと分けてあげてた。
 オレ、知ってるよ。
 オレの誕生日を祝ってくれた時も、栄口君と水谷君はケーキを半分コしてた。
 水谷君と栄口君は、なんでも半分こ、だね・・・!
 そ、それって、いいよね。憧れる、よ。仲がいいしるしみたいだ。
 オレもしてみたいな・・・・。
 ちらっと横目で阿部君は隣になっているしのーかさんと話をしていた。
 あ、なんか、楽しそうだ、な・・・。
 って思ってたら阿部君の顔がいきなりこっちをむいたから、また目があっちゃった。
 う、羨ましいって顔してたの、ばれたかな?ど、どうしよ・・・阿部君、なんて思っただろう?

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