「野球部のレギュラーってサー、結構顔がいい人そろってるよねぇ」
 って、隣の席の女が学級日誌を書きながら、まるで独り言みたいに言った。


There is no accounting for taste 1



「うち、野球部って、もっと芋っぽいのが多いと思ったんだけど、みんな顔いいからびっくりした。レギュラーってもてるんじゃない?」
 オレは黒板を消す手を一瞬止めたけど、振り返らずに無言で再び手を動かし始めた。席順の関係で一緒に日直をしているだけで、この女と仲がいいわけでもなんでもない。むしろ、喧嘩ばっかりしている。女バスでポイントガードをやっているこの女は言いたいことをずげずげ言うし、態度もがさつだ。
 でも、コイツのさばさばした性格は嫌いじゃない。
「あー。間違えた。消しゴムで消すの面倒だからいいや、×くれときゃ」
 オレが黒板を消し終わって、教室の後ろにあるクリーナーをかけに行く時に自席の横を通りかかる。その時、アイツの書いてある学級日誌をちらっとのぞくと、大きく×がふたつもついていた。間違ったらしい。オレも面倒臭がりだけど、流石に間違ったら消しゴムくらい使う。
 『キタネェな』って言うと、『うるさいなぁ。うち、消しゴムなくしたんだよ』と言われた。
「でさぁ、野球部は誰が一番人気あるの?」
 オレが黒板しをうぃ〜んって音を立てているクリーナーにかけていると、アイツが聞いてきた。
「そんなん知らねーよ」
 つきあってらんないから、そっけなく答えるとアイツは学級日誌から顔を上げてにまっと笑いこう言った。
「あ、ごめん。真柴もレギュラーだっけ?例外もいるんだな」
 人を馬鹿にしたような顔にムカッとして、睨んだ。そしたら、アイツ・・・シシシッて笑いやがった!マジムカツク!
 でも、アイツはムカついているオレをスルーして延々と語り続けてる。
 なんて、図々しいんだ・・・。
「うちの部ではサ、一年の間じゃ高瀬さんとか人気あるよ。あと、レギュラーじゃないけど仲沢がいいって言う子多いかな?二年の先輩は本山さんとか松永さんがいいって言ってる」
 日誌を書き終わったのか、シャーペンをペンケースの中に突っ込んでファスナーをシメながらアイツが笑う。
「でもね!全学年共通で人気あんのが、島崎さん!」
 ドキッとした。
 半ば、聞き流していたのに・・・慎吾さんの名前が出たらつい反応しちゃった。
「ダントツだよ、ダントツ!」
 やっぱ、慎吾さんはもてるんだ・・・知ってたけど、こうして女子の口から聞くとなんだか・・・複雑な気持ちになる。
 まぁ、慎吾さんのプレイ見てれば女がこういう反応するのはわかる。
「うちのクラスでもファン多いよね。あの人、運動神経いいじゃん?それにさ、目立つし、性格は悪くないみたいだし。あと、面白いって言われてるよね。あの人、うけるギャグとか言うの?うちは話したことないからわかんないけどさ」
 馬鹿言うな。慎吾さんはくだんねぇギャグなんかとばさねぇよ!
 面白いって言うのは、話題が多いとか、人と変った観点でものを考えてるとか、そういう意味だよ!(多分)
「トモダチに付き合って、一回だけ島崎さん見に3年の教室行って見たんだけどさ・・・うちは島崎さんのどこがカッコイイかさっぱりわかんなかったんだよねー」
「!?」
 オレは女の口から、慎吾さんについてのこんな評価をはじめて聞いた。思わず嘘だろって思った。
「まぁさぁ・・・ちょっとはカッコイイけど、みんながどうしてあんなに騒ぐのかわかんないよ。顔がすっごいカッコイイってわけじゃないさぁ・・・たいしたことないじゃん。ちょっと、真柴?アンタいつまでクリーナーかけてんの?せっかくテスト期間中で部活休みなんだから、早く帰りたいんだけど」
 リアクションできずにいると、アイツが椅子から立ち上がって、こっちに来てオレの顔を覗き込んだ。
「・・・なんで、そんなに怒ってんの?」
 アイツがちょっと困ったような顔をしたから、オレはなんとか手を動かしてクリーナーのスイッチを切った。
「・・・別に、怒ってねぇよ」
「さっき真柴のことからかったから?」
「違うって言ってるだろ」
「じゃあ、なんで怒ってんのよ!」
 アイツが逆ギレしたから、オレもついつい大声になる。
「たいしたことなくないんだよ!」


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