しまった!と思ったのはアイツがぽか〜んって顔をしたからだ。
 オレが、何かを言う前にアイツはじっとこっちを見て、
「真柴・・・アンタ、島崎さんのことをうちに『たいしたことない』って言われたから怒ったの・・・?」
 と、言った。

There is no accounting for taste 2

 
 的確にオレの言った意味を把握している。女は、妙にこういうところが聡いから厭になる。
何を急にわけのわかんないこと言い出してんの?って言ってもらった方がよっぽど楽だった。
「真柴って、そんなに島崎さんと仲よかったっけ?」
「別に・・・普通」
「そんじゃ、島崎さんのこと好きなんだね」
「なっ!そんなんじゃねぇーよ!」
 何言い出すんだよ、コイツ!
「そーいうんじゃなくって・・・慎吾さんは普通にもてる。背だって、低くないし。身長だってオレと5センチしか違わないのに、オレよりずっと手足が長いんだよ。ゴツ過ぎないから、見た目のバランスもすげぇ良い。茶髪でチャラくみえるけど、全然そんなことなくて、性格もいい。顔も、いいじゃんか。それに、野球やってる時はマジで、その・・・すげぇんだよっ」
 ヘンな風に言われるのが嫌だから、誤解を解こうとして言った言葉が・・・すんなり出てこなかった。オレは、慎吾さんのことを口に出して褒めるの苦手だ。いつも、思ってること口にするのって、なんか恥ずかしくなるし、改めて言葉にするとなんて言っていいのかわかんねぇんだよ。
「へぇ、島崎さんて野球巧いんだ」
 って、アイツが言うから、オレは思いっきり頷いた。
「巧くなきゃ、レギュラー入りしてねぇよ。まぁ、レギュラーの中でも、慎吾さんは、すげぇんだけどさ。なんでも出来る。打ってよし、守ってよし、おまけに走れる。テクすげぇんだよ。オレなんか、飛んできた球を打ち返すのがやっとで、思った方向に飛ばすことなんかできねぇけど、慎吾さんなんか打ち分けられるんだぜ?普段、ちょっと何考えてんのかわかんないところあるけど、打席に立つといつもと全然雰囲気変わる。目つきも、まるで得物を狙うライオンみたいな感じになるんだよ。スゲェきりっとした顔になる・・・」
 ここまで言って、とっさに口を噤んだ。
 だって、コイツ・・・まじまじとオレの顔見てんだもん。
「何赤くなってんの、真柴?」
「なんでもねぇよ・・・そっちこそ、なんでオレの顔見てんだよ」
「いや、真柴って・・・島崎さんのこと、ホンット好きなんだねぇ」
「!!」
 ちがうっつってんだろ!
 って、言おうとして言えなかった。
 だって・・・廊下から笑い声がしたんだよ!しかも、この声、超聞き覚えある!
 もう、やだ、このパターン!
「テメー!利央・・・!廊下に居るんだろ!!立ち聞きしてやがったな!!」
 オレが怒鳴ると、教室のドアがガラガラと開いて、廊下から利央が笑いながら入ってきた。
「迅、うける・・・!とうとう槇にまで言われてんの!やっぱ、迅が慎吾さん好きなのなんてバレバレなんだよ〜。誰が見ても一発だよ、一発!」
 槇っつーのは、このオレの隣席の女の名前だ。利央、よく知ってんな・・・。
「えー?うちにまでってことは他に誰かに言われてんの?」
 槇がニヤニヤしながら利央に聞いた。
「オレにも言われてんだよ、迅は!」
 利央!お前黙れ!
「真柴、やっぱ島崎さんと仲いいんだよね?なんで、真柴が必死になって否定するのかわかんないんだけど」
 槇がまだ、そんなことを言っている。
 オレは利央に睨みを利かせた。
 お前、ホント余計なこと言わなくていいからな!
「うーん、仲よくないって言われるとオレとしては複雑なんだけどなぁ」
 って・・・え!?ちょっと待て、この声って・・・!
 ま、さか・・・。
「あ、え・・・!?やだ!」
 槇も、事の成り行きの不穏さにびくっとした。そりゃそうだろう。今までの、全部聞かれてたとしたら・・・びくつきもする。
 オレは手にしていた黒板消しを槇に押し付つけて、利央が開いたままにしていたドアから廊下に飛び出した。どこから声がしたんだ?ときょろきょろしていると、その途端、ポンと背中を叩かれた。
「!」
 ばっと振り返ると、金髪に近い茶髪の生徒が出口のすぐ隣の壁に寄りかかりながらオレを見て笑っていた。
「よう、迅」


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